ブランディングに取り組むことを考えはじめたかたは、CI(Corporate Identity/コーポレートアイデンティティ)を聞いたことがあるのではないでしょうか。ただ、CIがよくわからないという方も多いかと思います。
CIがよくわからないという方や、ブランディングに取り組みたいけれどCIは必要なのか迷っているという方に、今回はCIについてCIの意味や定義、CIを構成する要素やCIに取り組むメリットを戦略事例も含めてわかりやすく解説します。
CI(コーポレートアイデンティティ)とは
CI(コーポレートアイデンティティ)とは何でしょうか?ブランディング初心者の方にもわかりやすいよう、CIの意味や定義、ブランディングにおける立ち位置についてまずはご紹介します。
CIの意味と定義
CIとは、企業の独自性や特性をあらわす言葉、デザイン、統一化した顧客体験を包括的に設計した企業戦略です。顧客や市場はもちろん、その企業で働く社員に対して、自社がどういった存在であるか、4つの要素(MI,BI,XI/VI※これらについてはのちほど解説します)で表現します。
1990年代におこったCIブームでCIをロゴやデザインだと認識する方も多いですが、これらはCIの一部です。CIとはロゴやデザインを超越して、視覚的に訴えるもののほかにも、社員の行動規範や顧客体験の統一化など、企業が自らの存在価値を発信・提示することを目的としています。
企業は営利を目的として経済活動を行う組織であり、モノではないため、実際に見て触ることはできない存在です。見えない存在である企業をわかりやすく、その存在や価値を伝える軸となるのがCIです。
CIの構成要素
1990年代に日本で起こったCIブームは、2000年を迎える前に陰をひそめます。それは、CIのロゴや社名という一部分のみにこだわった企業が多く、その他の重要な要素が抜け落ちてしまっていたからです。
長く続く優秀なCIにはどのような要素が必要なのでしょうか。
CIは企業独自の理念・哲学・文化を誰にでもわかりやすいよう4つの形で表現します。
- 企業理念やビジョンを簡潔な言葉であらわし(MI)
- 企業理念やビジョンを軸に社員の行動規範(BI)を示し
- 企業理念やビジョンをデザインやロゴなどの視覚(VI)的に表現し
- 顧客と企業の接点におけるあらゆる体験(XI)を統一化する
この1を中心に2,3,4と包括的に設計されたものがCIです。
ではCIを構成するMI、BI、XI/VIについて、それぞれ概要をみていきましょう。
1.MI(マインドアイデンティティ)
MIとは企業の理念やビジョンであり、社会のなかでのその企業の存在意義をわかりやすい言葉で表したものです。企業の哲学や文化、歴史などを紐解き、その使命や目的、展望を言語化した、CIの軸となる部分です。
MIの詳細:MI(マインドアイデンティティ)とは
2.BI(ビヘイビアアイデンティティ)
BIとは、MI(企業理念や企業ビジョン)にともなって、社員がどのように考え、行動をすべきかが説かれた、社員の行動規範(クレド/Credo)です。企業が理想的とするビジネスパーソンを言葉で明文化しています。
BIの詳細:BI(ビヘイビアアイデンティティ)とは
3.VI(ビジュアルアイデンティティ)
VIとは企業のロゴや商標、色、フォントなど、企業を視覚的に表現した一貫性のあるデザイン全般をまとめたものです。MIを目で見える形に表現したものがVIです。
一貫性のあるデザインをつくることによって、他社と識別して顧客に視覚的に認知され、顧客体験に統一感をもたらす重要な要素になります。
VIIの詳細:VI(ビジュアルアイデンティティ)とは
4.XI(エクスペリエンスアイデンティティ)
XIとは、企業が顧客に届けるすべての体験に一貫性をもたせるため設計された、顧客体験を統一化するルールやガイドラインです。
顧客と企業のあらゆる接点(タッチポイント)は、顧客体験につながります。このタッチポイントに統一感をもつことで、企業の発信するメッセージに一貫性をもたせます。顧客体験のなかでも大きな比重をしめるのが、さきほど紹介した顧客の視覚に訴えるVIです。
XIの詳細:XI(エクスペリエンスアイデンティティ)とは
この1~4に一貫性をもたせてつくられたCIは企業の軸となり、10年後、50年後、100年後と変わらず企業で受け継がれ続ける不変の価値をもたらします。
CI(コーポレートアイデンティティ)の効果
CIは何か、どのような要素によって構成されているかをここまでみてきましたが、CIは企業にとって本当に必要なものなのでしょうか。
実際に企業がCIをもつことのメリットをみてみましょう。CIには主に3つの効果があります。
顧客に付加価値を届け、企業価値が向上
CIがしっかり設計されている企業は、商品やサービスそのものだけを販売しているのではありません。CIの核になる企業の理念やビジョン(MI)とともに商品やサービスを届けます。MIは上でご紹介したBIを行動に移す社員やXIで統一化された企業と顧客の接点を通して、顧客へと伝えます。
企業の理念やビジョンを体現する社員やスタッフに触れ、一貫性のある顧客体験を通して、顧客は商品やサービスに秘められた企業の価値観やストーリーに共感し、商品以上の価値を受け取ります。CIは商品やサービス以上の付加価値をプラスしてくれるのです。
企業のCIに共感した人たちは、企業への信頼を構築し、企業のファンとなり、企業がブランドとして認知される手助けをしてくれます。
一貫性のあるCIを発信し続けることによって、企業が社会にもたらす価値をわかりやすく届け、商品やサービス以上の付加価値を届け、最終的には企業の価値が向上することへとつながります。
競合企業との差別化
一貫性ある4つの要素で設計された優秀なCIは、自社の独自性を明確にします。それは競合企業との違いを打ちだし、同業種において唯一無二のポジションを築いていくことへとつながります。
情報も商品もサービスもあふれる時代、他社との大きな違いを打ち出すことができるゆるぎないCIをもつ企業は、価格競争や競合他社との頭打ちの状態から一歩抜け出すことができる土台を築き上げてくれます。
社員のロイヤリティ構築とモチベーションアップ
CIを明確にしている企業は、CIをとおして社員に自社の存在をしっかり意識づけることができます。社員は自分がどのような企業で働いているか、何を目指している企業の一員であるのかをしっかり理解することで、企業へのロイヤリティが育まれていきます。
また、CIによって自社への理解を深め、CIが反映された経営戦略を実現するための企業活動において、社員は自分の仕事を明確に認識することができます。組織のなかでの自分の役割を認識しることは、モチベーションアップにつながります。
企業では色々なバックグラウンドや多様な個性の社員が働き、それぞれ価値観も異なります。そのなかで、CIが企業の独自性を社員に提示することで、全社員が同じ方向を向いて、同じ目標を目指すことができます。
CIRCLのCI(コーポレートアイデンティティ)の作り方
CIの効果を理解し、企業にとって大きなメリットをもたらしてくれることがわかりました。ではCIはどのようにつくるのでしょうか。
ここまでに解説したとおり、CIは企業を言葉やビジュアル、体験に一貫性をもたせて表現した、独自性や特性をあらわす企業戦略です。
CIは、CIの核となるMIから順に、BI、VI、XIと取り組むことでつくりあげます。
- CIの核となる企業理念やビジョンをわかりやすく言語化する(MI)
- MIを軸として、社員がどのように仕事に取り組み、どのように考え、どのように行動すべきかを示す行動規範をつくる(BI)
- MIを視覚化したロゴやコーポレートカラーなどを決定する(VI)
- 顧客と企業の接点(タッチポイント)をあらいだし、顧客体験を統一化する(XI)
CIはこちらの図のように、内側から外側へとひとつずつ作り上げていきます。ここで重要になるのが、一貫性です。4つの構成要素のうち、いずれかひとつだけでも違う方向性でつくられると、CIの存在する意味がなくなってしまいます。
また、CIは経営戦略にも影響する企業の核になるため、CIをつくるときには経営陣も参加することがのぞましいでしょう。
CI(コーポレートアイデンティティ)の具体例
CIの意味やメリットを理解し、どのようにつくりあげるかをここまで見てきました。実際の企業はどのようなCIをもっているのかを具体例をみながら解説していきます。
事例1 飲食店 スターバックス
スターバックスは多大な広告投資をせず、世界を代表するブランドとなった企業です。それはぶれることのない優秀なCIが会社全体に浸透し、企業活動へと反映されているからです。
スターバックスはミッションとバリューを社員教育で徹底的に伝え、これらが反映されたVI、XIをつくりあげています。ここには、一貫して「人々の心を豊かで活力あるものにするため」という意図がくみとれます。
スターバックスのCI
ミッション
人々の心を豊かで活力あるものにするためにー
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
バリュー
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
スターバックスと私たちの成長のために。
誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、
その瞬間を大切にします。
一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
XI
- 落ち着いた快適な空間づくりとインテリアレイアウト
- 座り心地の良い椅子
- くつろげる音楽
- ロゴの入ったカップ
- フレンドリーな店員の接客など
心豊かにリラックスした時を過ごせるよう、どの店舗においても一貫した顧客体験】
(参考URL:https://www.starbucks.co.jp/company/mission.html)
事例2 アパレル ユニクロ(ファーストリテイリング)
日本を代表する世界的ブランドとなったユニクロをもつファーストリテイリングは、MIを軸として、BI→VI→XIを包括的に設計しています。
ユニクロ(ファーストリテイリング)では、MIを軸として、BIやVIが構築され、ユーザーの使いやすさを徹底的に追求した顧客体験を目指すXIがつくりあげられています。
ファーストリテイリング(ユニクロ)のCI
ステートメント
服を変え、常識を変え、世界を変えていく
ファーストリテイリングのミッション:
ファーストリテイリンググループはー
本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
私たちの価値観
お客様の立場に立脚
革新と挑戦
個の尊重、社会と個人の成長
正しさへのこだわり
ファーストリテイリング(ユニクロ)のBI
私の行動規範-Principle
お客様のために、あらゆる活動を行います
卓越性を追求し、最高水準を目指します
多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます
何事もスピーディに実行します
現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います
高い倫理観を持った地球市民として行動します
XI
デジタル革新を活用したUX(顧客体験)の一連の流れが設計され、店舗にいてもいなくても、日々ユニクロに触れ、ユニクロを体験する包括的なXIで、テレビCM、自社マガジン、SNSやLINE、デジタルサイネージ、広告など消費者との360°のコミュニケーションで店舗へと誘導
(参考URL:https://www.fastretailing.com/jp/)
事例3 メーカー NIKE
世界的スポーツブランドであるNIKEは、MIを軸として、具体的で堅実なBI、普遍的なスウォッシュロゴに代表されるVI、情報分析によって顧客満足度をあげる顧客体験を追求したXIで構成されたCIをもっています。
NIKEはもともと卸売りが強い企業だったのですが、XIを充実させたCIをつくることによってDtoC(direct to customer)が高い売り上げを誇る企業へと進化を遂げています。
NIKEのCI
ミッション
BRING INSPIRATION AND INNOVATION TO EVERY ATHLETE* IN THE WORLD
*IF YOU HAVE A BODY, YOU ARE AN ATHLETE.
「世界中のすべてのアスリート*にインスピレーションとイノベーションをもたらすこと」
*身体さえあれば誰もがアスリートである
NIKEのBI
RESPECTED(尊重されるべきこと)
FAIR(公平)
SAFE(安全)
SUSTAINABLE(サステイナブル)
XI
情報分析によって、顧客の満足度を高め、企業の信頼を向上させる顧客体験を追求
- それぞれの顧客にパーソナライズされたアプリ
- 顧客の使いやすさを追求したオンラインショップ
- 30日間返品可能なオンラインでのシューズ購入など
(参考URL:https://www.nike.com/jp/)
まとめ
CI(コーポレートアイデンティティ)とは何か、その効果や構成要素など、CIがブランディングに取り組む上で理解する必要があるポイントをみてきました。とくにCIは次のような効果があることがわかりました。
- 顧客に付加価値を届け、企業価値が向上
- 競合企業との差別化
- 社員のロイヤリティ構築とモチベーションアップ
CIは、企業の心となるMI、それを体現して企業活動を行う社員を導くBI、MIを視覚的に訴えるVIやそれを顧客へ届けるための顧客体験の統一化をするXI、これら4つの要素をベースに企業の独自性を提示します。これは、企業活動はもちろん、経営戦略にも重要な企業の軸になるものです。CIは企業が続くかぎり、変化することのなく受け継がれるDNAのような存在です。
どれかひとつの要素の方向性がずれてしまうと、まとまりのないCIができあがり、CIの存在意義がなくなってしまいます。そのため1つ1つの完成度が大切になるのです。
企業の軸となるCIを自社でつくることに不安がある方や、今後を見据えて企業のさらなる発展を目指す方は、ブランディングを専門とするCIRCLにぜひ一度ご相談ください。他社との差別化をはかり、自社の強みを伸ばす戦略的アプローチを活かしてブランディングの効果を実感できるCIを作ることが可能です。
参考文献
「デジタル時代の基礎知識 ブランディング 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール」(著:山口 義宏 株式会社翔泳社)